あの美しさは何?

妖精なの?

しかも、ピアノ弾けるとかギャップ萌え?

とにかく、ビックリした…


ときめくというより、なんだかとても尊いものを見たような…そんな感じ。

まだ、胸がドキドキしている。


だけど、私…今日のこと、ずっと一生忘れないと思う。そう感じた。


桜樹は、他の男の子達がしないようなことをサラリとやってしまうんだ。

だから、私、こんなドキドキしちゃって。


足早に歩いてしまうよね、こういう時。とにかくジッとしてられない。

走り出したいような気持ちだけど…
それは、我慢我慢。


雲間から夕陽が差し込んでいた空はどんどん雲が広がり、だんだん雲行きが怪しくなってきた。

急がないと、雨が降るかも…

余韻に浸ってぼんやりしてたから、学校に傘を置いてきてしまった。


と、思った時、修行僧のように雨に打たれてしまった。


もう、本当に梅雨ってイヤ!!

ずぶ濡れ過ぎて、心が折れそうになるのを必死で堪えながら走る。


スカートどころか、靴の中までびしょ濡れ。


走って、雨宿りできそうな場所を探していると、誰かに腕を掴まれた。


「こっち」


私の体はいとも簡単に引き寄せられた。むしろ今、宙に浮いたんじゃないかってぐらいに…


声で、もうわかっちゃうんだよ。


「海晴くん」


今日は定休日でシャッターが閉まっている文房具屋の屋根の下に入った。


「急に降ってきたね」

海晴くんが空を見上げて言った。


「うん…」

前髪から落ちる滴が目に入りそうになって目を閉じると、


「あ、なずなちゃん!」


海晴くんが慌てた声を上げた。