そのまま地下鉄に乗る。南くんは私の手を握ったままあの怒ったいつもの顔で、なにもしゃべらずに無言でいた。

私はぐるぐると頭の中で考えていた。
確かに、好きって言った。
私の事を好きだと。
本当に????
ということは、あれはプロポーズ?

川沿いのマンションまでの道のりで、二人きりになって私は口を開く。

「あのう・・・。」
「・・・・・・。」
「あれは、プロポーズということですか?」
「・・・・・・。」
「ちょっと、人が聞いているんですけど!無視しないでよ。」
こうやって都合が悪くなるとすぐ黙る。

南くんは、まだ怒った表情でぶっきらぼうに聞いてくる。
「で、おまえはどうなんだ?来るのか来ないのか?」
「そんなこと急に言われても・・・。」
「・・・・・・。」

「でも、」私は、立ち止まる。
彼も立ち止まって、私の方を振り向く。
「・・・・・・。」

「私も、南くんが好き。」
まっすぐ彼を見上げてそう告げる。
「・・・さっき、大嫌いって言わなかったっけ?」

私は、そのまま南くんの胸にこつんと頭をぶつけて、うつむいたままもう一回はっきりと呟く。
「好き。大好き。」

ふわっと彼の大きな腕が私の身体を引き寄せて、ギュッと強く抱きしめられる。
朝、地下鉄の中で感じた彼のぬくもり。 大きな胸。
彼の腕の中で、彼を見上げるとまだ怒った顔をしている。
「そういうことは、もっと早く言え。」
「こっちのセリフ」
「・・・・・・。」
「ねえ、なんか不思議なにおいがする。南くん。」
てくんくんと彼のシャツの匂いを嗅ぐ。
「お前は、犬か?」
南くんは、やっと笑顔になってくすぐったそうに笑う。
「さっき葉巻吸ったから。」
「葉巻?!」

私はびっくりして彼を見上げる。
また、彼は怒ったような顔をしている。
まだまだ南一徹のことで、知らないことがいっぱい。


けれど、嬉しい時は、彼は照れ隠しなのかいつもこういう怒った顔をする。

というのも、やっと今気が付いたんだ。


END