「じゃあ、ドロシー。仕事に行ってくるから、ここからでないでね」
と、私に言い残して去っていってしまった兄様ですが、一つよろしいでしょうか。
図書館の館長さんに私を見張るよう頼むのはやめて頂けませんか。
図書館にたどり着いてすぐ、さっさと本を物色し始めた私ですが、兄は信用してくださらないのですかね。
居心地悪いです。
まぁ、いいですよ。
と、一応館長さんの視線を感じつつ本を開き、立ったまま読み始める。
するとすぐに本に没頭してしまい、館長さんのことは気にならなくなりました。
そして。
どのくらいたった頃でしょうか。
2冊、いえ、3冊ほど読み終えて顔をあげた時。
何やら騒ぐ声が聞こえるのです。
私は本に没頭すると信じられないくらいの集中力を発揮するので、まったく他のことに気づきません。
先日、家の書庫で本を読んでいる私の隣で、書庫管理のお手伝いさんがハシゴから落ちてすごい音を立てたのすら気が付かなかったのは、自分でも呆れるしかないです。
とまぁ、そんなことで、気がついた時には図書館にしてはすごい大声で人々が怒鳴っているのです。
争いは嫌いですが、そっと顔をそちらに向けると。
「だから、知らねぇって言ってんだろ!」
「嘘つけ!お前が盗んだのは調べがついてんだよ!」
男性2人がぎゃあぎゃあと。
よくわかりませんが、とても耳障りです。
大体、図書館は静かに本を読むところなのですよ。
…………わかってますか?
図書館で騒ぐこと、これ即ち本への侮辱です。
はぁ、とイライラして顔をあげると、片方の男性に目が止まりました。
あれ?
盗んだのはお前だ、と言われている方です。
その彼が身につけているもの。
………どこかで見覚えが。
そして私ははたと気が付き、二つ隣の本棚へ。
上から3列目の左から28冊目に目当ての本を見つけると、それを取り出してパラパラ。
そして探していたページを開き、元の場所へ戻り、本と彼を見比べます。
3度確かめてから、私は。
そっと彼らに近づいて。
「それは盗品ですか?」
と、彼の首に下がっている宝石を指して率直にぶつけてみました。
言い争っていた2人の視線が私をとらえ、なんとも居心地が悪いです。
「なんだテメェ」
声が地をはっています。
だから男性は怖いのです。
けれどここで逃げたら女が廃ります。
私はどうにかゆっくりと口を開きました。
「………その宝石、ブルーダイアモンドですよね。それほどの透明感と大きさは、アルフレッド公爵夫人が所有しているものしか存在していないはずですが」
私の問いかけに、男性は面倒くさそうに。
「おいチビ、お前が誰か知らねぇが、俺はな、さっきからレプリカだっつってんだよ」
レプリカ。
つまりペーパークラフト。
…………………では。
「ではそれを高い位置から落とせますか?」
「は?」
私の質問に、まったく意図が掴めないようで、イライラしている男性。
その隣では、ローブに身を包んだ男性が静かに私を見つめています。
「………それを貸して頂けますか?」
私がすっと手を出すと、男性は慌てたように宝石を押さえます。
「傷がつくだろ!」
「では、その時は私が責任をとります。………失礼致します!」
私は男性の手ごと宝石を叩き落としました。
ちょうど良く宝石を留めていた糸が切れ、真っ逆さまに床へ。
床に接触した時、ガシャンと大きな音が……………立つことはなく、カランと乾いた音を立てて床に転がりました。
しんと静まり返る中、私はゆっくり深呼吸。
男性は慌てたように宝石を拾い、傷がないかチェック。
「傷は…」
ほっとしている男性を見て、私はゆっくり口を開きます。



