一気に流れ込んできた情報量に息苦しくなり、何度もため息をつきつつ検索を続けると、対局中の映像が見つかった。
イベントで公開対局に臨んだときのものらしい。
スーツ姿で将棋盤の前に座る少し若い直は、おじちゃんがよく見ている将棋のテレビそのまま。
パチン、と音がする。
じっと盤面を見た後、スッと手を伸ばして駒を持ちパチンと置く。
迷いなく流れるような動作。
指先に吸いつくような駒。
そして澄んだ音。
あの日、直の部屋で見た姿そのままだった。

本当に本当に、直はプロ棋士だったのだ。

携帯を放り投げて自分も床に転がった。
これは確信しているのだけど、直は別に隠していたわけではないと思う。
こうやって調べればすぐわかることなのだから、聞けばあっさり教えてくれただろう。
私だって隠しているつもりもなく、言っていないことはたくさんある。
だけど、インターネットの情報が真実なら、直は人生の半分以上を将棋の世界で生きてきたということだ。
もちろん、恋をするのに相手の全てを知る必要なんてない。
けれど、恋人で居続けるためには、知っておかなければならないことだってある。

直にとっての将棋はあまりにも大きい。
直本人と分けて考えるのは不可能なほど。
よくもまあ、将棋以外の部分で付き合って来られたと思う。

昼休みに段位を聞いてからも、直とその話はしていない。
私が直の仕事に気づいたことは彼の方でもわかったはずなのに、『今日起きたら昼だったのに、夕方また昼寝しちゃった』としか言って来ない。
だから私も『夜眠れなくなるよ』とだけ返した。

とてもショックで何て言っていいかわからない。
けれど、何に対してショックを受けているのか曖昧で、そのモヤモヤゆえに結局言えなかった。