絶叫系は避けてやさしいアトラクションをいくつか回ったあと、人だかりの向こうにパレードが見えた。
こちらもクリスマス仕様になっているらしく、キャラクターたちもサンタクロースの帽子をかぶったり、赤や白の衣装で踊っている。
「あれ、何だっけ?」
カボチャの馬車にもリースが取り付けられ、あたたかそうなファー付きマントを羽織ったシンデレラが笑顔で手を振っている。
その光景を、直は怪訝な表情で見送る。
「シンデレラでしょ?」
「シンデレラって馬車に乗ってたっけ?」
私が桃太郎を知っているように、男の子だってシンデレラは知っていて当然だと思っていた。
「カボチャの馬車とガラスの靴はシンデレラの二大アイテムじゃない」
大雑把なあらすじでさえ「馬車に乗って」「靴を落とした」なんて省略されることはないはずだ。
それでも直は首をかしげて考えている。
「シンデレラってウサギを追いかけて靴を落とす話だよね? あれ? 追いかけてたのはドラ猫?」
アニメまで混ざる曖昧さで、おとぎ話を捉えているらしい。
「白雪姫は知ってる?」
「リンゴ食べる話でしょ?」
「……まあ、そうだけど」
靴を落とす、リンゴを食べる、それが物語のすべてではないのに、直にとってプリンセスストーリーはそういうものらしい。
「どんな人生送ってきたらそうなるの?」
「必要な知識じゃなかったし、興味が他のことに向かってて」
「男女問わず“常識”の範疇だと思うよ。女の子なんて七割くらいは憧れるものなんじゃないかな? 王子様とかキラキラしたものとか」
「真織さんも?」
「うーん、肩書や外見だけの王子様には憧れなかったな。頭でも剣術でも何でもいいから、技能持ってる人の方がよかった。魔術師が格好よくて好きだったんだよね」
「あははは! なんか真織さんらしいなー!」
混み合う前に食事をしようとレストランに向かったけれど、同じことを考える人ですでに賑わっていた。
さんざん並んで、空腹のピークも過ぎ去った頃、ようやくテーブルに案内される。
「へえ~、すごい。ここまでクリスマスカラー」
ほうれん草が練り込まれた緑色のスパゲッティに、トマトクリームソースのかかった私のお皿に、直は感激していた。
「味は普通だよ。食べてみる?」
「じゃあ、俺のと交換」
星型の人参がトッピングされた直のビーフシチューも味は普通だった。
この値段ならもっとおいしいものが食べられるのに。
浮き立つ気持ちの奥底で、そんなつまらない自分の声がする。
「あ、これもクリスマスだ」
直のコースについていたフランボワーズとホワイトチョコレートのムースには、ミントの葉が飾られている。
「すごいこだわりだなあ。得した気分」
ムースの三分の一をひと口で食べ、直はにっこりと笑いながらお皿をこちらへ滑らせた。
「おいしいよ」