こだわりがない部分は面倒臭がって丸投げする傾向がある人なのだ。
就位式に現れたバイオリニストも、直の要望ではなく、

「連盟の会長がファンなんだって。適当にお任せしたら、自分が会いたい人引っ張ってきたみたい。俺が主役なのに、あんな目立つ人連れてくるなんて、やめてほしいよね」

と、顔をしかめた。
それに懲りたなら、もう少し考えて決めて欲しいものだ。

「次からもう少し考えるけど、今回はもう変更できないから受け取って」

言い争っている私たちを、配送センターの人と職場のみんなが困り顔で見守っている。

「……わかった。どうもありがとう」

「どういたしまして」


中身は確かに事務用スツールなのだけど、さすがは桧山家具。
機能美を兼ね備えた美しいフォルムにつややかな皮。
色は、地味を極めたネズミ色一色の職場では浮きまくっているオフホワイト。
どこのオフィスならばこの事務用スツールが馴染むのか、というほどに輝く存在感だ。
そういえば、去年ブレイクしたオネエスタイリストが「桧山家具でオーダーメイドした」と自慢していた事務所のイスもこんな感じじゃなかったっけ?
少なくとも、うちの職場のどの用具より高級なことは間違いない。

「明らかに社長の僕より偉そう」

社長の言葉におじちゃんも「玉座だな」と頷き、ブラジルはニコニコ見守っている。
座ってみると、仕事する意欲が増すのか奪うのかわからないほどに心地よかった。

「真織さん、『陛下』って呼んでもいいですか?」

「『陛下』と社長と棋聖って誰が一番偉いの?」

社長が陛下のイスを奪い、うっとりと座り心地を確認する。

「いいなあ。僕もイスが壊れたら、次の就位式でもらおうーっと」

私はニッコリと微笑んで、社長を玉座から追いやった。

「社長にはいいイスが空きましたよ。高さ調節できないから一番低い座面になりますけど、社長の脚の長さにはちょうどいいから差し上げます」

社内の備品が壊れたら、拾ったりもらったりしないで買ってくれ!