「桧山家具配送センターでーす。商品のお届けに参りましたー」

桧山家具なんて高級な店から誰が何を買ったんだろう、と見回すと、同じ表情が五つ返ってきた。

「社長?」

視線を向けるとふるふると首を横に振られた。

「僕は知らない。他の誰かじゃない?」

「俺も違う」

「私じゃありません」

ブラジルも両手を左右に動かしつつ「No! No!」と否定。

「え? じゃあ何? 誰も知らないなら受け取らない方がいいんじゃない? そういう詐欺もあるっていうしさ」

「とりあえず私、業者さんに確認します」

頼子ちゃんが入り口でやり取りしている間も、私たちは醜い争いを繰り広げた。

「どうせ社長かおじちゃんが自分で注文して忘れてるだけでしょう?」

「いや、俺そこまでボケてない。キヨちゃんだろ?」

「桧山家具ってどこにあるの?」

「キヨちゃん、そこから? 有名な高級家具店だよ」

「まあ、高級家具店と縁ある人が、こんな会社にいるわけないよね」

「こんな会社……鈴本さん、入社面接のとき『御社と結婚したつもりで、共に墓場まで参ります!』って言ってたのに、もう忘れたの?」

開けっ放しのドアから入る秋風が、事務所の室温を下げるので、頼子ちゃんはとりあえず箱を中に引き入れた。

「中身は事務用スツールだそうです。心当たりある人いますかー?」

と言うと、蚊帳の外にいた直が、「あ!」と声を上げた。

「やっと届いたんだ。それ、真織に。会社で使ってよ。イス壊れてたでしょう?」

私のデスク前に運び入れられた箱の中身は、どうやらイスらしい。

「そんなの買ってもらえないよ! 誕生日でも何でもないのに。しかも会社の備品!」

三代さかのぼってもド庶民の私は、無闇に贈り物をもらえるようなセレブな神経は持っていない。

「不都合あるなら社長が拾ってきたことにしたらいいよ。どうせ買ったんじゃないから」

「じゃあ、どうしたの?」

「もらった。タイトル取った副賞として。俺別に欲しい物なんかなくて、真織のイスが壊れてること思い出したから」

引き出物でもらったカタログギフトから「うーん、これならまあ使えるかな」って選ぶ感覚で、貴重な副賞を決めたようだ。

「尚更もらえないって! 自分の記念になるような物頼みなさいよ!」