「…そういえば、大翔はどうして智樹と友達になったの?
智樹は転校生だったって聞いたけど。
全然馴染めなかった智樹に声をかけたのは大翔だって」


「んー?……ムカついたから。」


「は?」


「小学生の頃な、あいつが来たのは。
あいつさー、友達本当にぜんっぜんできなくて。」


「笑うところじゃないけど。」


「はは、そうなんだけど」


思い出すと、笑わずにはいられない。
だって、今では騒いで笑って友達たくさんな智樹だけど…あいつも転校してきたばっかりの頃は
心優と変わらず、誰とも仲良くしようとしないやつだったから。


「あいつは4月、春休み明けに転校してきてさ
最初は転校生だから注目もされるわけ。お前もそうだったしな。
だけど智樹はそれを無視。ってか返事ができてなくてさ。
俺が前に住んでた家と智樹の家がめっちゃ近所で、帰り道とかよく見かけたりもしたんだけどいつもひとりで

……あいつんちさ、両親とも仕事らしくていつも帰りが遅いんだよ。
で、俺見ちゃったんだよね。
近所の公園で、ひとりで泣いてる智樹を。」


ブランコに座って、ランドセル背負ったまま
一人で外だということも忘れたかのようにポロポロ涙を溢していた智樹が
気になって仕方なかったんだよな。


「で、俺は思わず話しかけたってわけだよ。
寂しいなら友達くらい作れよ、作る気ないのかよ、って。
それに智樹は"一人の方が好きだから"ってそれだけ言った。
ただそのあとすぐに智樹の母親が帰ってきてたけど。

たぶん、前の友達とも離れ離れになって、新しい友達ともうまく話せなくて、親の帰りも遅くて寂しかったんだと思う。
だけどその日は母親が早く帰ってきて、智樹は笑って母親に駆け寄ったんだよ。
それが、俺にとって智樹の初めての笑顔。

その時俺思ったんだよね。
嘘でも笑えるんだな、って。
さっきまで泣いてたやつが、母親に学校での出来事を笑顔で話してる。
あいつなりに、親を心配させまいとやってることなんだろうな。

小学生なのに、まだガキなのに
…そんな智樹が、俺は放っておけなくて

その次の日だったな。また帰り道に会ってさ。
もうすぐ遠足なのに友達すらいない智樹に言ったんだよ。
"友達がほしいなら、でけー声で挨拶できるくらい度胸つけろよ"って。」


「度胸って…小学生が言うセリフ?」


「まぁ俺もませてたし。

で、"友達がいれば嘘で笑う必要もなくなるのにな"、っつって、あとは智樹に任せたんだよ。
そしたら次の日、智樹は教室に入るときこれでもか!ってくらいでかい挨拶かましてきてさ。
それに一瞬シーンとなったんだけど、あまりにもでかい声だったからみんながそれに笑って、それに応えるように、智樹も笑った。

ま、それが俺と智樹の最初っつーか、過去?

だからさ、心優にいくらシカトされたって
智樹は毎日でかい声で挨拶してたろ。
あれにはそういう意味が込められてんだよ。

泣いてばっかしてもしかたねーだろ。
あの挨拶はあいつなりの決意で、笑って過ごせる日々の前兆。
智樹は今、今度はお前にでかい声で挨拶出来るようになってほしいって
そう思ってんじゃね?」


「……ふーん。
まぁさすがに大きな声で挨拶はさすがにもう無理だけど」


「俺もそう思う。17だしな?」


でもなんでだろうな。
笑顔で挨拶されるだけで、気分は良くなるんだよな。

不思議だよな。