「……お前さ、その元カレと付き合ったこと、後悔すんなよ。」


何も喋らず黙々と餃子を包む静かな空間を先に破ったのは俺だった。
その静けさが嫌な訳じゃねーけど。


「は?何急に」


「いや、後悔してんのかなって思って。」


「……後悔なんて、するに決まってるじゃない。
後悔しないでいったい何をするのよ。
……出会わなければよかったのよ、最初から。」


「成長するんだろ。
つーか、後悔して何か変わんの?
後悔してたら友達は帰ってくんのかよ。
なにもなかったことにできんのかよ。
出会わなければよかった、なんて考えてんじゃねーよ。

……そういうことがあったから、これから先どうやって変わっていくか決めていけるんだろ。

過去にあったことは夢でもなければ嘘でもない。
悔やんでたってしかたねーだろ。
そいつのことがどんだけ好きでも二度と会えなくてもさ、お前は前に進んでいくしかねーんだから。

これからどう変わるか、だろ?
じゃなきゃお前、一生寂しいままだぞ。

本気でそれでいいと思ってんのかよ。
誰とも喋ろうとしない、関わろうとしない。
それで、本気で生きていけると思ってんのかよ。

みんなうまくいかないことばっかなんだよ。
うまくいかないことを繰り返して、うまく生きていけるようになってんだよ。
お前みたいにたった一回うまくいかないことがあったからって、それで諦めるやつなんていねーんだよ。

それだけみんなが自分の人生、一生懸命生きてんだよ。
甘ったれてんなよ。
少しは勇気だして自分の人生、ちゃんと生きてみろよ。」


手を止めることもなく、目を合わせることもなく、ただただ餃子を包みながらだけど

俺の声は確かに届いていたみたいで


「…みんながみんな、あなたのように考えられる人ばかりじゃないの。」


ちゃんと返事が帰ってきた。


「そんなことはないな。
お前だって、少しは前に進んでんだよ。

じゃなきゃお前、いまだに餃子をまともに包むことすらできなかったはずだけど?」


「……は?」


「友達を追い詰めて、彼氏と別れて、自分の子は流産で、親にも捨てられて
お前はなにもなくなったかもしれない。

だけど空っぽになったからこそ、今そうやって餃子を包んでるんだろ。
それがなきゃ、お前はまだ餃子の包み方すら知らなかったはずなのにな。」


なぁ、わかるかよ。
お前が餃子を包めるようになったのはさ、転校してきて、俺と知り合ったから、なんだよ。

バリバリのお嬢様かもしれねーけど、お前が育ってきた環境とはまるで違うかも知れねーけど
それでもお前は今、ここで生きてんだよ。