「えっ…」


そういう心優は今までで一番優しく笑っていて
俺の頭はそれを理解するのに時間がかかった。

だけどそんなことを気にすることもなく心優は続けた。


「私が別れたいって言った前の日、大翔私にキスしたでしょ?」


「あ、あぁ…」


「元カノに挑発されたくらいで、あんな簡単にキスされて
それがすっごいむかついたの。

それまで大翔に感じる"好き"がなんだかわからなかったんだけど、その時やっとわかったの。

私は大翔にその程度にしか思われてないんだって。
私は、他の女の子たちと変わらないんだなって。

それが嫌で、その程度の女になりたくなくて
私は別れたくなったの。」


心優はそういって、俺の手を掴んだ。


「私は、大翔の本当の彼女になりたくなったんだ。」


その手からもその思いが伝わるくらい、力強く。
力強く、俺のことを見つめていた。

だから、俺も

「あの、俺も…」

俺も、心優のことが好きだって伝えよう
そう思ったのに、俺の口を心優の手が覆った。

まるで俺の言葉なんか聞きたくないかのように。


「私が大翔の支えになりたかった。
両親がいなくても、私がいるから寂しくないって思ってもらえるくらいに。
……でも、今の私じゃダメだから。

今の私じゃ大翔の彼女になっちゃダメだって思った。


だから、私一人で頑張ってくるから。
一人で生きて、一人で強くなってくる。

ちゃんと戦って、ちゃんと前に進めるようになったら
そしたら私戻ってくるから


……そしたら返事、聞かせてくれる?」


そう聞く心優の目は、微かに潤んでいて、少しだけ揺れていた。


「……わかった。」


その俺の返事に心優はまた優しく微笑んだけど、俺から目線をはずした。


「でもね、私いつ戻ってくるかわかんないの。
自分で自分を許せるようになるまで戻ってくるつもりはないの。

だから、それまで大翔を縛り付けとくのも嫌。
そんな約束をするのも嫌。
大翔モテるから、そんな約束を忘れられたり破られたりしたら、私はきっと大翔を憎んじゃうから。

……だから、今日でサヨナラ。」


「…は?」


「またね、なんて言わない。
戻ってきても大翔に連絡するかはわからないし、私がずっと大翔を思い続けてるかもわからない。

だからね、大翔は好きに生きてね。
私のことなんか気にしないで、好きに恋愛もしてほしいから。」