「ま、簡単に言えば
私はもう完全に捨てられたの。
私が成人したら、戸籍からも抜くんだって。
2億円。
そのお金で、私は捨てられた。」
「……うそ、だろ?
だって実の子供なのに、親がそんなことするかよ」
「するんだよ、うちの親は。
……理解しがたいかもしれないけど、親は私なんて会社を大きくするための道具としか思ってない。
そんな私にスキャンダルがついたら、私なんかもう使い物にならないの。
……そんなもんなの。」
なんだよ、それ……
親にとって、子は宝じゃねーのかよ。
命懸けて産んだんじゃねーのかよ…
「…でも、なんでそれが留学なんだよ。」
「一から挑戦してみたいの。
世間知らずのお嬢様が、知らない土地で生きていけるのか、どこまでやれるのか。
もう、誰にも頼れないから試してみたくなったの。」
「だから、それなら日本でだって…」
なんでわざわざ日本を出る必要があるんだよ。
ここでだっていいじゃねーかよ…
「悔しかった。」
「…は?」
「私って、いつもなんでも完璧にこなしてきたの。
勉強も、友達付き合いも、スタイルも、おしゃれも。
なのに、こんなチャラついた男子高校生に料理でバカにされて。」
「・・・いや、あれなら誰だってばかにするけど」
あのきたねー包み方の餃子に、まったく包まれてないオムライス。
女子力低すぎるにもほどがあるだろって思ったわ。
「だから悔しかったの。
料理なんて、自分でするものだと思ってなかった自分に。
……同じ一人暮らしなのに、大翔の方が料理がうまくて正直驚いたの。
だから、その時から決めてたの。
絶対いつか、大翔に美味しいっていってもらえる料理をするんだって。
こんなチャラついたやつに負けてたまるもんか、って。
……初めてだった。
初めて私に、将来の夢っていうものができたの。
"大翔を美味しいと言わせてやる"なんて、くだらないかもしれないけど。
大翔がこんなに頑張ってるんだから
だから、絶対に負けたくないから日本を離れるの。
誰も知ってる人がいない状況で
言葉も通じるかわからない状況で頑張ってみたくなったの。」
そういう心優の瞳は輝いていて、決意を固めた表情に
「…もう、決めたことなんだよな?」
「うん。」
俺はもうなにも言えなかった。


