━━月曜日


『話があります。
朝、西館のあの教室の前で待ってる。』


起きると、心優からそうLINEが来ていて俺はいつもより30分早くアパートを出た。




まだ7時。まだ静寂に包まれた廊下を歩き、西館に向かった。
まだ太陽の当たらないこの建物は本館よりももっとひんやりとしていて、なぜか俺を緊張させていく。


ヒタヒタと、俺の足音だけが響く階段を登ると、もうすでに心優らしき人影が向こう側に見えた。


「━━おはよ、大翔。」


「…おう、はよ。」


その人影はやっぱり心優みたいで、いつも通りの挨拶を俺に投げ掛けた。


「なに?話って。」


やっと心優の近くに来た俺は足を止め、きっといつもならここの鍵を開けて中に入れるけど
……なんとなく、心優が入る気がなさそうだったから、俺は開けることもせず、廊下で話を切り出した。


昨日のこともあるしなんとなく、嫌な予感がするけど



「うん。あのね
……別れてほしいんだ、私と。」



そんな予感は、やっぱり的中するんだ。

母さんと父さんのときだって、呼び出さなくたって会える俺をわざわざ呼び出すときはいつも、大事な話だったから━━


「……なんで?」


「好きな人がいる。」


俺の問いに、心優は間髪入れずにそう答えた。
俺がなんにも反論できない、その理由を。


「だから、もうこのままぐだぐだと大翔と付き合ってるのが嫌になったの。

ごめん。」


「……そ。わかったよ。」


心優の表情は、なにかを決断したように強い眼差しで俺を見ていて
俺はもう、なにも言えなくて心優の決意に同意するしかなくて


そもそも、お互い好き同士で付き合ってたわけでもないから、俺に引き留める権利もないわけで


「……じゃあ、また友達としてよろしくな。」


俺はもう、前のポストに戻るしかなかった。


「…じゃあ先に戻ってるね。」


そういって歩き出す心優の横にはもう行けなくて、遠ざかる小さな背中を見送ることしかできなかった。