イライラし過ぎたのか、イライラが頂点を通り越したのか、
俺は知らぬ間に


「ちょ、んっ…」


心優にキスしてた。


「……これで満足かよ。」


その時の、全力で嫌がる顔をした心優の表情が、俺の目を覚ました気がした。


「へー、大翔もやることはやるんだね。
ま、じゃあ約束通り帰ってあげる。

ちなみに、用事はこれね。
大翔、私の部屋に卒アル置きっぱなしだったから届けに。」


……そんだけ?
それだけのことでわざわざここまで来て、俺にキスまでさせたのかよ…


「じゃ、私行くわ。
彼女さんと仲良くね~」


美空は俺に中学の卒アルをどかっと渡すと、本当にすんなりと帰っていった。

……のは、いいんだけど


「帰る。」


「え、ちょっ…!」


突然、心優もそういって逆方向に歩き出したから、とりあえず腕を掴んで引き留めた。


「待てって!映画行くんじゃねーの?」


「行かない。離して。」


「……ごめんって。
いきなり変なことして、約束破ってごめん。
だからそんな怒んなよ」


「怒ってない」


「じゃあなんで帰るんだよ。」


「大翔には…!!」


なんで帰るんだ、と問い詰めれば
心優は俺の手を振り払いながら、いつもとは違いすぎる声をだし、俺を睨んだ。
……なぜか、涙を溜めた瞳で。

かとおもえば、今度は静かに、弱く


「……大翔にはわからないよ」


そう呟いて、俺に背を向けて反対側に歩き出していた。



"大翔にはわからない"


その言葉通りで、俺にはわけがわからなかった。
いきなりキスをして、怒っているとは思うんだけど……

でも、あんな心優は見たことがなくて
もう引き留めることも、追いかけることもできなくて
俺はその場で、立ち尽くすしかなかった。





━━そしてその翌日、日曜日

俺は、バイトに行く前に私服姿で会う智樹と心優を見つけてしまって
また一人、モヤモヤとした気持ちと格闘する休日となった。