空羽はきっとここにいる…
左に抱えた花束を持つ手が汗で滲む。
ゆっくりと開いた病室の先に、
─────────空羽の姿はなかった。
ベッドに横たわるのは空羽のおばあさん。
初めての挨拶がこんな形でごめんなさい…。
傍らにはポツンと椅子が1つ。…間違いない、空羽はここにいたんだ。
はやる気持ちを抑え、あたしは持っていた花…アイリスを棚の上の花瓶に生けた。
アイリスの花言葉は
──────''メッセージ''、''希望''
あたしたちの願いをありったけ込めた。
アイリスを購入したのは空羽のおばあちゃん行きつけの花屋さん。
出発する前
''花を買いたい''
そういったあたしに緋里さんが教えてくれた。
────────さえ子さん、諦めないでください。
空羽があなたのことをずっと待ってるんです…────────────
「…空羽を探そう」
あたしたちは静かに病室を後にした。
「あの、すいません。嶋名 さえ子さんの病室にいた男の子を知りませんか?」
病室を出ると早速ナースさんに空羽の事を聞いて回る。
少しでも手がかりがあれば…
「あー、あの男の子ならさっきエントランスから出ていくのを見たわよ。ここに来て外に出るのは初めてじゃないかしら?彼のお友達?」
「ありがとうございます。…大事な親友なんです」
教えてくれたナースさんにお礼を言い、あたしたちはエントランスをくぐった。
あたしたちの気持ちとは裏腹に、照りつける強い日差しと絵に描いたように真っ青な空。
あたしたちはその空の下をもう1つの目的地に向かって駆け抜ける。
表札に書かれた''桜町''の文字を見て、足を止めた。
ここが……
「空羽の生まれ育った町…」



