『うん。ゆっくりしていって』
そう言うと緋里さんは一度梅の間を去った。
『…芽依。申し訳ない気持ちは分かる。でもあたしたちが今1番にしないといけない事は一刻も早く空羽の所に行くことだよ…。空羽を心配してるのはあたしたちだけじゃない。先生も、緋里さんも、この町の人もきっと心配してる』
緋里さんが出て行ったのを確認したあたしは芽依に声をかけた。
『もう、あたしたちだけの思いで行動してるんじゃない。だからこそ空羽に会って一秒でも早く皆を安心させてあげないといけない。…違うかな?』
『……違わない』
『だったら今は甘えさせてもらおうよ。あたしたちはまだ高校1年生。…あたしたちだけで出来る事なんて限られてるんだから』
これは杏結莉の時に嫌でも思い知らされたこと。
差し伸べてくれる手があるのなら…あたしはその手を頼りたい。
『うん、そーだね』
何とか納得してくれた様子の芽依を見て、あたしたちはそれぞれ家に連絡を入れた。
『みんな。今日きっと何も持ってきてないよね?』
やってきた緋里さんにそう言われ、あたしたちは顔を見合わせる。
『実は…万が一のためにって着替えは持ってきてあるんです』
莉玖翔が代表して口を開いた。
『そうなんだ。みんな準備がいいね。それなら安心した。先にお風呂、入っておいで』
『『はい…!』』
あたしは芽依と女湯に向かった。
────────女湯にて。
『……………』
『…………………』
あたしたちはさっきからずっとこの調子。会話がない。
『芽依…大丈夫……?』
『…うん』
たしかにあたしは普段から進んで声をかける方ではないけれど。
いつもはあたしたちの間に沈黙なんてない。



