それから俺は常に奏穂と過ごすようになった。
奏穂が苦しんでる時はいつだって寄り添ってきた。
そうするうちに奏穂は、黒木のことで悩まされることはなくなって。
あぁ、過去に出来たんだなって勝手に安心してた。
けど…そんなはずなかった。
あの日以来、高層の建物を見ると黒木の事がフラッシュバックするようになった奏穂のために。
またあんな事が起こらねぇために俺たちは高層ビルやマンションを避けてきた。
だけどまさか、こんなタイミングで高層マンションに遭遇するなんて…
思ってもみなかった。
頼むから無事でいてくれ、奏穂────────────
俺は祈るような気持ちでマンションの屋上に向かった。
「奏穂っ…!」
「…かい、と?」
屋上に出ると奏穂は少しでもバランスを崩せば落ちてしまいそうな場所に座っていた。
「あぶねーから…こっち来い」
「──────────────もうそっちに戻れない」
「は?何言ってんだよ…。俺は奏穂が…っ」
そこにいる奏穂が今にも落ちてしまいそうで、気が気じゃなかった。
俺は言葉を並べることで精一杯だった。
どうしたら奏穂が思いとどまってくれんのか。
どうしたら戻ってきてくれるのか。
必死で考えた。
けど…
「…あの日杏結莉は、あたしにそう言ったんだ…」
奏穂が口にしたのは、これまで奏穂が絶対に話さなかった''あの日''のことで。
俺は耳を傾けた。



