あたしは杏結莉に近づく。



『─────────奏穂…ごめんね。……大好き』



一度だけ振り返った杏結莉はそう弱々しく微笑むと




──────────地面から足を放した。



あたしは傾く杏結莉の身体に手を伸ばす。


だけどその手は杏結莉に触れることなく、──────────宙を舞った。


届かなかった。



────────────助けられなかった。



どれだけ時間が経ったんだろう。


沢山のサイレンと赤い光に包まれた夜の街。


あたしはそこに立ち尽くすことしか出来なかった。



『…あたしの、せいだ……。あたしが、杏結莉を殺したの……っ?』



『奏穂!おい、奏穂っ!何があったんだよ。黒木、どうしたんだよ…っ?』



気を遣って扉の向こうで待っていた海叶がサイレンの音を聞いてか、屋上に駆け込んでくる。



『あたし、が…っ、あたしが、支えてあげられなかった…か、ら…。杏結莉…杏結莉が…っ。おち、ちゃった…。あたしの、せいで…。杏結莉が……っっ』



『…落ち着け。お前のせいじゃねぇ。絶対にお前のせいじゃねぇから…』



立ち尽くすあたしを抱きしめながら海叶は優しくそう言った。


違うんだよ、海叶。違うの…。あたしのせいなの…。


その後、海叶が連絡したのかお母さんとお父さんが来て。


訳も分からないままあたしは自分の部屋にいた。