「わたし……
やっぱりまだ……、綺世のこと、好きなの」
流れる、穏やかなBGM。
空気を悟ったようにわたしたちではなく、3人組の会話に混ざる美人さん。謎に生まれる静寂の中でカチカチと時計が秒を刻む音が、やけに耳に痛い。
「……ん。それで?」
「それで、って」
「いや、んなこと知ってるに決まってんだろ。
つーか、俺ら付き合ってまだ数ヶ月じゃん。んな簡単にお前の気持ちが俺に向くとか思ってねーし、気にすることでもないだろ」
「……、夕李」
わたしが、想像してるよりも、ずっと。
彼はおとなで、優しくて、わたしのことを思ってくれていた。──どこまでも、深く。
「逆にもう好きだって言われたら、お前が今まであいつのこと思ってた気持ちはそんな軽いもんだったのかって思ってるだろうし。
……お前が俺のこと好きだって言ってんのは、自分にそう思い込ませて俺のこと好きになろうとしてくれてるんだって、わかってるから」
「夕李……」
「それに、俺言っただろ。
結構前からお前のこと好きだったって。それに比べたら、付き合ったいま待つのは全然苦じゃねーんだよ」
だから、ゆっくりお前のペースでいい。
そう言ってくれる夕李に、なんだかじわっと来てしまう。両手で顔を覆うと、優しく髪をなでてくれる彼の手。
「っ、思った以上に気持ち追いつかなくてごめんね……」
「恋愛に、気持ちが追いついたらそんなの楽しくねーよ。
追いつかねーからいろんなこと悩んで、そばにいるだけで楽しいって思えるんだろ。話ってこれだけ?なんだよ、なんかあったのかと思って焦ったわ」
別れ話かと思ったと声のトーンを落とす彼に、ごめんねと謝って「ありがとう」とお礼を言った。
そばにいてくれてありがとう。そして、待つと言ってくれてありがとう。



