「あーも……、なんなんだよ。
すみません、こいつ俺のなんで」
指を絡めた夕李が、わたしに声をかけてきた男の人数人にそう言って恋人繋ぎにした手を見せつけるように軽く持ち上げる。
出来た人混みを見回してみたらやっぱり地元の男子が数人こっちを見てニヤニヤしてたから顔を覆いたくなったけど、我慢した。
……のに。
なぜか、「数分一緒にいろ」と地元男子たちにわたしを押し付けて、学校にもどっていく夕李。
「チャリ取りに行ったんじゃね?
あいつ、窓からお前の姿見えてすげーダッシュして迎えに来たからな。やべーよあいつ怖ぇって」
「いまの計測してたらすごいタイム出てんじゃね?ってぐらい早かったよな走るの」
「つーかひの、なんでここにいんの?」
好き勝手言うメンバー達に「話があって」と言えば、別れ話?と聞かれた。
あなた達はわたしに夕李と上手くいってほしいのか上手くいって欲しくないのかどっちなの。どうせネタにしたいだけだろうけど。
「お待たせ。んで、何、どしたの」
「話があって、来たんだけど……」
「ふーん。……話、ね。
ファストフード系かカフェ行くか、テキトーに地元帰るか」
どれがいい?と聞きながらバッグを受け取って前カゴに入れる夕李。
たっぷり一拍使って考えたあと、「カフェがいい」と口にするわたし。おっけ、と返事した彼の荷台に乗せてもらい、ニヤニヤした視線に見送られてその場をあとにする。
なんとなくでカフェと答えたけど、どこに行くんだろうという疑問は。
駅を越え、一見まったく人気(ひとけ)のなさそうな路地を抜けて、アパートが立ち並ぶ住宅街の途中にあるお店の前で彼が自転車を止めたことで、解決した。
駅の裏の方は、あきらかに大人向けな怪しいお店が並んでる地域も近いから、めったに来ないけど……
こんなところにカフェなんてあったんだ、とブラックボードに書かれたおしゃれな『LARME(ラルム)』の文字を見つめる。
その間に自転車を止めていた夕李が、ごく自然にわたしの手を引いた。
ガラス越しに見えていたおしゃれな店内に足を踏み入れると、カウンターの向こうに立つ綺麗な女の人が「いらっしゃいませ」と微笑みを向けてくれる。



