「……送ってくれてありがと、綺世」



──フードコートで軽く休息をとった後は、特にすることも何もなく。

ひのの地元の駅まで送れば、笑顔を見せてそう言ってくれるひの。昨日万理もここまでしか送らなかったらしいが、彼氏でもない俺らが家まで送って気を使わせることもない。



「ああ。……またな」



「うん、また明日ね」



ふわりと微笑む彼女の髪を撫で、一度改札を出てから向かいにある反対側の改札へ向かう。

ひのと別れたタイミングを見計らったように掛かってくる電話におどろきもせずに出れば、「どうだった?」と端的な言葉。



「……別に何もねえよ」



いとこだからというか、俺らだからというか。

短い言葉だけでお互いに会話できるのは、それなりに長い時間ともに過ごしてきた証だと思う。……が。




『はは、ひさびさのひのちゃんとふたりきりの時間を過ごしてる綺世が何もしてないわけないでしょ。

……まあでも、彼氏がいるなら余計なことすると痛い目見るだろうし、ね』



人の傷を平気で抉ってくるような男だ。

長年一緒にいる俺はともかく、ほかの幹部たちはよくこいつのテンションに付き合ってて平気でいられるな。



「お前俺のことなんだと思ってんだ」



『完全な肉食系男子』



隠そうともしてないやつね、とくすくす楽しげな笑い声。

これは間違いなく、俺のことをいじって楽しんでるだけだ。……相変わらずタチが悪い。



『ひのちゃんのそばにいるの、あんまり楽しくなかったでしょ。

……もし自分があの子の彼氏だったらって想像しただけで、いまの状況に息苦しくてたまらないと思うし』



そのくせ的確だから、何も言えない。

がらんとした駅の中、すぐそばの踏切が鳴って「またあとでかける」と強引に電話を終えた。