「あなたがもし、「別れたくない」って言ってたら。
……あの後どんな言葉を交わしていたのかすら、わからないのに。話すだけ無駄だと思わない?」
「それでも知りたいって言ったら?」
「別れてたわよ、きっと。
わたし、一度決めたら人の話を聞かないってみんなに言われるから」
誰に何を言われても揺らぐことのなかったであろう決意。
そうさせてしまったのは……たぶん、俺で。自業自得と言ってしまえば簡単かもしれないが、それでも、手を伸ばしてみたかった。
「……お前にああやって依頼したけど、
音をただ追放したいわけじゃなかったんだよ」
「……でも、スパイだって」
あやふやで、あいまいで、あぶなくて。
ひとつ間違えてしまえばあっけなく足元が崩れそうで、言葉ひとつ選ぶのも慎重になる。崩れなくとも狭い足場で足を踏み外せば、当然落ちる。
「好きな女を忘れようとして別の女を作った男から、さっさと解放してやりたかった」
「……、え、」
「好きだって言ってくれる男のところに行かせてやりたかった。
……姫なんて名前で、縛ったりせずに」
目を瞬かせる彼女のくちびるを指でなぞれば、ひのが肩を震わせる。
それから戸惑うように俺の名前を口にしたせいで、彼女の吐息が纏うように指先に触れた。
「……女をチームのことに巻き込んでスパイさせるような男より。
何より彼女を優先する、万理みたいな男の方があいつには似合ってる」
協力してくれるんだろ?と問いかければ、頼りないうなずき。
そっと指を離したことで目についた色違いのリングに、彼女にばれないよう、息を詰めた。
……浮かれそうになるなんて、どうかしてる。



