「わたし……

ひのちゃんに、意地悪とか、したくない」



「……音ちゃん」



「意地悪したくないけど、綺世のことだいすきだから……

振り向いてもらえるように努力するの。……だから、いまはまだ、そばにいさせて」



おねがい、と。

見つめてくるその瞳がただただ彼を想っているようにしか見えなくて、困る。否定もできなくて素直にうなずくと、彼女はふわりと笑みを浮かべた。



「ありがと、ひのちゃん」



「ううん」



「……むずかしいかもしれないけど、仲良くしてほしい、な」




だめ、かな……?と。

不安そうにわたしを見上げる姿が、たまらなくかわいい。もちろんだめだなんて言えるわけがなくて「こちらこそ」と告げたわたしに、彼女はこくこくうなずいてくれる。



ああもう、かわいい。

……本当に彼女が綺世のことを想っているなら、敵うわけがないと、思ってしまうぐらい。



「えへへ、ありがと。

……みんな待ってるから、もどらなくちゃ」



「うん、そうね」



行こうと満面の笑みで手を差し出してくれる彼女と、なぜか手をつないだまま幹部室へもどる。

険悪モードなんてまったく見せないわたしたちの様子に、みんなは完全に「何があった?」と言いたげで。



「ひのちゃんとお話ししてきたよー。

わたしはやっぱり別れるつもりないし、ひのちゃんも了承済み。でも、好きなだけ綺世はひのちゃんと仲良くしてくれていいから」



ひのちゃんと仲良くなったんだよ!と。

にこにこ笑う彼女に、誰かが何かを反論するわけでもなく。結局、彼女をあっさり追放するということは出来なくなってしまったのだけれど。