どうして、そんなことを言えるんだろう。

本当に好きだったら、きっと、どうしようもないほどに独り占めしたくて堪らないはずなのに。……やっぱり、スパイとして忍び込んでるだけだから?



「どうして……好きな人のしあわせを願えるの。

わたしなら、絶対そんなことできない」



ずっとそばにいてほしいし、ずっと自分だけを見ていてほしいと強く願ってしまう。

好きな人の好きな人にしあわせになってほしいなんてそんなこと、願えるはずがない。



恋愛に理性なんか歯が立たないことぐらい、とっくの昔からわかってる。

見返りを求めないというのなら、きっとそれは、恋じゃない。



「どうして、って。

好きだからしあわせになってほしいって、純粋に思ってるわけじゃないよ。だから、別れるとは言わないんだもん」



「別れてなくても、好きな人のそばにその人の好きな人がいるなんて、どう考えても嫌じゃない。

好き同士でいるふたりを見てる方が、よっぽどつらいもの」



「なら、綺世から離れてって言ったら、離れてくれるの?違うでしょ?

"わたし"が受け入れなきゃ、あなたを好きな綺世はいくらでもわたしから離れてく」




それを聞いて、自分の考えの浅はかさに気づかされる。

どこまでも好きなら、好きな人の好きな人を、受け入れてそばにいることしかできない。……音ちゃんが綺世と一緒にいられる方法は、それしかない。



もし本当に彼女が綺世のことを好きなんだとしたら。

……わたしの存在は、迷惑でしかないのに。



「綺世のこと……そんなに好きなの?」



自分がいる立場だとか。

いまみんなが選んでほしい選択肢だとか、すべて頭から抜けて、こぼれたのはわたしの中に残るまっさらな疑問。



はい?と訝しげな表情を浮かべた音ちゃんは、「好きだよ」とつぶやく。

その姿がどこまでも女の子らしく見えて、裏切ってるなんて、信じたくないと思ってしまった。



「ずっと好きだったんだもん……

そばにいたいし、別れたくなんて……」



大きな瞳から、ぽたりと涙が落ちる。

ぐすっと鼻を啜って涙を拭った音ちゃんが、「ひのちゃん」と静かにわたしの名前を呼んだ。