「先に言っとくけど……

わたし、別れないよ?綺世」



綺世が言い出す言葉を、わかってるみたいに。

遮られて、綺世が口を開こうとしたのをやめる。ピシッと部屋の空気が凍りついて悪くなることもお構いなしに、彼女がにっこり彼に向かって微笑んだ。



「新しい彼女とか、わたしは認めないから。

……なに言われても、別れないよ」



「……音」



「だって綺世のこと好きだもん。

そもそも付き合ったときに綺世わたしのこと好きじゃなかったでしょ?だから、いまさらほかの女の子が好きって言われても別れる必要ないと思わない?」



スパイがバレていることは、彼女に言えない。

追放したいその事実を告げることは出来ないせいで、それ以上強くは彼女を突き放せないのは難点だ。



綺世が黙ったのを見て彼女もそれ以上何か言うことはないようで、今度はわたしへと視線を向ける。

そのまま優しく笑みを浮かべた彼女は、いままでの会話がなかったかのように平然と「はじめまして」と口にした。




「ねえ、やっぱりふたりで話してきてもいい?

綺世の部屋ちょっと借りるね?いいでしょ?」



「あ、ちょっと音、勝手なこと、」



「だーめ。……女の子同士の話だから」



にっこり。

引き留めようとした万理にそう言って、優しい力でわたしの手首を引いて部屋を出る音ちゃん。扉の隙間から見たみんなの表情は、完全に呆れていて。



「……さっきも言った通り、綺世は付き合った時わたしのこと好きじゃなかったから。

いつかこんな風に新しい彼女連れてくるんだろうなあとは思ってたんだけど、」



綺世と、姫である彼女だけが入ることの出来る部屋。

主に綺世の自室となるそこにお邪魔して彼女の話を聞くのは、なんだか不思議な気分だった。



今はもう別の彼氏がいるわたしと。

綺世のことを好きだと言っている、音ちゃん。……スパイなのだから、きっと綺世を好きっていうのは嘘で、本命の人がいるんだろうけど。