「その手には乗らないわよ」
ふいっと顔をそむけてみたら、彼は「そうか」とつぶやいて、一連の流れがなかったみたいにわたしの手を引いて駅への道のりを歩き出す。
潔くあきらめてくれるんだなと思いながらその隣に並んで歩き、違和感に気づいたのは最寄りで電車を降りて、わたしの家へと向かう途中のこと。
付き合ってからというもの、綺世はいつも欠かさず家の前まで送ってくれる。
だから今更反論も何もないのだけれど。
「……ねえ、綺世」
ちらりと彼がわたしに視線を向ける。
その瞳にうつしてくれるだけで、しあわせだとおもうのに。……もっと欲しいと思うわたしは、わがまま?
「ねえ、ってば。
わたしがさっき冷たくしたこと怒ってる?」
くっ、と。
彼の手を引いて引き止める。さっきから返事が少ないし、話をちゃんと聞いていない気がする。同じ場所にいるのに感情を分かち合えないのは、嫌なのに。
「……怒ってるように見えるか?」
「だって、話聞いてくれない、」
怒ってないなら、どうして聞いてくれないの?
そう問えずにジリジリとよくわからない焦燥感に苛まれていたら、繋いでいた手が離されて、両手で頬を包まれる。そのまま、顔を上げさせられると。
「さみしいって、顔してる」
心の中を、いとも簡単に見透かされた。
……ううん、顔に出るほど、さみしいの。ちゃんとわかってほしくて、伝えられなくて、もどかしくて。でもよく考えれば、すべてに対する答えはひとつしかなくて。
「……好き」
ぽろっとこぼれた言葉に、彼が口角を上げる。
ゆっくり引き寄せられると綺世の輪郭がぼやけて、くちびるに触れるぬくもりに目を閉じた。一度で離れようとした綺世を引き止めたらちょっと驚いたような反応をされたけど、気にならない。



