ひのの考え方は、たぶん賛否両論にわかれるものだと思う。

心を救うでもなければ、相手の身を傷つけない方法を選ぶでもない。死という最悪の選択肢を選ぶのに比べたら、たかが手首の細い傷はいくらでも付ければ良いという考え方だ。



だけど俺にとっては、たぶんいちばんの最善策だった。

誰か本気で心を救ってくれるような相手が、俺のそばにいるわけではないし。



そなた含め幹部のことは大事だけど、それだけじゃなんでもかんでもうまくいくほど世界が甘くないんだってことは、すでに痛いほど知っていたから。

──最悪の選択肢を選んだ時、ひとり悲しんでくれる人がいればいいな、ぐらいの気持ちだったから。



ひのがそうやって俺に逃げ道を与えてくれたのは、正直ものすごく助かった。

お節介にそばにいられるわけでもなく、見放すわけでもない。



友だち以上恋人未満の、仲良いヤツの彼女っていう距離感は、俺にとって特別なものだった。

……そう、思ってた、はずなのに。



「お前、

何回も俺にひののこと奪わねえんだって言ってただろ」



そなたが投げてくる言葉のひとつにすら、否定も肯定も返せない。

強制的に感情につけられたその名前を呑み込めずにいる状態で、そなたに視線を向ける。




「同情だとか、お前のためを思ってとか、そういうお前を怒らせる感情だったわけじゃねえし。

俺だってあいつと本気で幸せになれんなら、それでよかっただろうけど、」



「………」



「もし俺とひのがうまくいってたら。

……たぶんお前、今度こそ壊れてただろ」



うまくいく可能性なんて限りなくゼロだったけどな、と。

そなたがこっちに顔を向けたことでようやく視線が絡んだのに、ちゃんと視界におさめられなかった。



「……無意識でも、

お前はあいつのこと好きだったんだよ」



「、」



「さっきも言ったけどお前に同情したわけじゃない。

……ただあいつも幸せになれて、なおかつお前を壊さない方法は、俺が恋愛感情よりお前との仲を優先するしかなかった」