「お前、ひの以外の女に絶対髪触れさせねえだろ」



「、」



「つーか、音のことは最近音って呼んでるけど。

お前が昔から呼び捨てで呼ぶ女もあいつだけだ」



それは……ただ、ひのがどんな女よりも距離が近いからで。

俺が好きかどうかは関係ない。つうか、そうじゃねえと困るわと苦笑する。違ぇよ、と否定しながら視線を落とした先で左腕を見て、ハッとした。



……なんで、腕時計忘れてんだ。

いつもなら、傷を隠すために、絶対欠かすことなくつけてる。



だから忘れたことなんてねえのに、なんで、今日に限って。



家に出てすぐに気づくならまだしも、ここに来てもう何時間も経ってる。

……なのに気づかねえって、よっぽど俺が意識してなかった証拠だ。




「何よりお前、

中学のときそれなりに遊んでたのにやめただろ」



無意識に傷を隠すように右手で手首を握る。

寝転んで真剣な話をする気があるとは思えないそなたに言い返そうと薄くくちびるを開いたのは良いものの、反論がまったく出てこなかった。



……たしかに俺は中学のとき、結構遊んでた方で。

校則違反だとわかっていながらも、そなたと同時期に髪を染めた頃は、毎日のように違う女の子と一緒にいた。



なのに。



「……気づいてなかっただけで好きだっただろ」



遊ぶのをやめたのは、"あのとき"だ。

ひのが、百夜月の姫になってすこし経ってから。幹部の俺らとも一緒に過ごすようになって、慣れてきた頃に何気なく、手首に傷をつけていた話をしたとき。



ひのに「またみやがそれをやろうとしても、止めることはない」と言われたのを覚えてる。

生きてるってことを感じていられるのなら。……死を選ばないのなら、そこに傷をつけることは、止めたりしないと。