──窒息しそうだ。

重くて深い愛に沈められて、口を塞がれて、窒息しそう。だけど溺れて死にそうになったら、キスで助けてくれるんでしょう?



ずるいのは一体どっちだって言いたくなる。



「ひの。……付き合うのが2回目ともなれば、

俺は今度こそいろんなものに加減してやらねえぞ」



「え、何そのセリフ」



「何、じゃねえ。

……恋人としてしっかり可愛がってやるって言ってんだから、覚悟しろよ」



だから何そのセリフ……!と言い返そうとしたら、また塞がれて何も言えない。

指輪の嵌った右手が、彼の左手と絡む。わたしの左手に絡む彼の右手には、お揃いの指輪。ひとりでいる時に見たら、思わずニヤニヤしそうで困る。



嬉しくなってしまって抱きついたら、「今日は送っていく」と囁かれた。

ついでに「ほんとは帰したくねえけどな」なんて、わざと意識するような誘い文句を仕掛けてくる綺世に、ふいっと顔を背けて知らんぷり。




「そういえば、浴衣の模様には意味があるんだと。

撫子は、『笑顔』と『優美』らしい。……お前にぴったりだな」



「浴衣の模様の意味まで知ってるって、

逆に物知りを通り越して変態っぽいんだけど」



なんで浴衣の模様の意味なんて知ってるの。

というか綺世に笑顔がぴったりだって言われてちょっと嬉しくなっちゃうからやめてほしい。単純脳でごめんね。盲目なのよ。



「……あ、そうだ、綺世。

わたしからちゃんと言わせて欲しいんだけど」



「ん?」



「わたしと……

もう一度、付き合ってください」



──今年の、夏の思い出は。

みんなで。ううん、綺世と、一緒に見たはずの花火よりも。……彼のどことなく嬉しそうなその微笑みで、いっぱいになりそうだ。