あのときちゃんとした理由もなしに別れてしまったことに、「ごめん」って謝りたい。

それからずっと好きでいてくれたことへの感謝を込めて、「ありがとう」も。



彼にだけ贈る最上の愛の言葉を伝えた後は、もう二度と離れてしまわないように、ちゃんと言葉に出すべきだ。

すべて抱えようとせずに、最初から素直に言っておけばよかった。



──「好き」と。

たった一言、もっと早いうちに。



「おう。

……解決しなくても、言っていいんじゃね」



「ううん、ちゃんと解決してからにする。

ずっと綺世を待たせた分、わたしなりのけじめだからこれだけは譲れないの」



「めんどくせー女だな。

……ったく。しあわせになれよ、絶対に」



絶対なんて確証のない言葉は苦手だったけど。

いまなら、迷うことなくうなずける。頭を撫でられてほっとしたら、予想以上に気を張っていたのか途端に襲ってくる眠気。……そうだ。わたし、徹夜したんだ。




「ごめんそなた……

帰るまでにちょっとだけ眠ってもいい?」



「ああん? 徹夜なんかしてるからだろーが」



なんて文句を言いながらも好きにしろよとわたしの目の前にあるグラスを退けてくれるんだから、彼は優しい。

お礼を言って机に突っ伏せば、ゆるやかに思考が薄れていって。



「……ったく。普通告白してきた相手の前で寝るか?」



「そなちゃーん。……あれ、ひのちゃん寝たの?」



毒付くそなたと、ゆゆの声がぼんやりと聞こえる。

だけどもう、それを理解する気力もない。



目を閉じれば、真っ暗な世界。

──眠りに落ちる瞬間。記憶の中の彼が、「ひの」と穏やかにわたしの名前を呼んでくれた気がした。