「……うん。ありがと」
くよくよしてちゃ負けだ。
音ちゃんのスパイ疑惑がどうなっているのかはあんまり教えてもらえないしわかってない。あと、夏休みに誰とも会ってないせいでみんなとの関わりも徐々に薄くなってる。
だけど、全部解決したら。
今度こそ、ちゃんと伝えたい。──もう二度と揺らがないまっすぐな言葉で、彼だけに。
「まだ11時過ぎたばっかだから、あんま腹減ってねーかもしれねえけど。
のんびり飯食いながら話そーぜ」
「そうね。
……何気に、ふたりでご飯来るのはじめてじゃない?」
「まー、お前の横に常に綺世引っ付いてるからな」
引っ付いてるって……
発言に問題があるけど、ちょっとうれしいとか思ってしまったわたしの脳内も十分問題だ。
メニューを開いていたら、今度顔を覗かせたのはゆゆではなくマスターの方。
お冷を出してくれた彼は、「はじめまして」と親切にも挨拶してくれた。
「さっきちらっとしか顔見えなかったけど、よく見てもすげー美人じゃん。何、綺世の彼女なんだって?」
「人の女口説いてんじゃねーよオッサン」
「自分の女みたいに言ってんじゃねーよクソガキ。
ったく、綺世に見初められるってのも楽じゃねーよな」
"あいつ恋愛に関してしつこそうだし"と、肩をすくめるマスター。
しつこいと言ってしまえば、確かにそれまでだけど。
「……誰よりも一途に想ってくれる人ですから」
わたしが「彼氏ができた」と言ったあのとき。
綺世に彼女ができたと知ってわたしが傷ついたように。そぶりを見せなかっただけで、彼も深く傷ついていたんだろうか。──それでもまた、めげることなく手を伸ばしてくれた。



