今なら、ひのと別れてる間で。

春休みだから、ひのに気づかれる心配もない。だから終わらせてしまおうと考えた綺世は、先輩と一度だけ出掛けてる。



「そん時にまじめに告白されて、もちろんふったあとは、約束通りそれ以降連絡も取ってねえらしいけど。

……先輩に揺さぶりかけられて、『ひのちゃんは本当に綺世のこと好きなの?』って聞かれたんだと」



「……綺世は、なんて、」



言ったの、と。

盗み見たひのの表情が泣きそうだったから、俺の言いたいことにはちゃんと気づいてんだろうなって思った。ひのを、責めようとは思わないけど。



「悩んでたよ~。

……夏から調子崩してるひのは自分のことに気ぃ取られてて、あいつに全然「好き」って言ってやってなかったんだもんな~」



「っ、」



……ああ、やっぱ自覚してたのか。

じゃなきゃそんなにショック受けたような顔するわけねえし。いまさら気づいたって遅いのは、どっちもどっちだけど。




「いつもあいつはまっすぐだけど、ひののことになったら途端に不安もまとわりついてくる。

そんな中で、ひのの気持ちを確かめるために、」



「彼女を、つくったの……?」



「そ。……彼女をつくったって知ったら、ひのがどんな反応すんのかあいつはそれなりに期待してた。

でもまあ、なんも言わなかった俺らも俺らだけど。……好きな男に彼女できたら、女からすれば「よかったね」としか言いようがないよな」



どうしようもなく建前だけの言葉だとしても。

それを聞いてショックを表に出す女の方が少ない。当たり前のことなのに、気づくのが遅すぎた。……それでも俺らは懲りなくて。



「ひのがちょっとでも綺世のこと好きな素振り見せんじゃねえかなって、わざとひのの前で彼女の話出したりとか。

綺世のいないとこで、綺世と彼女のラブラブだっていう話聞かせたりしただろ」



「聞きたくもないのに散々聞かされた」



「……でもひのの方が上手(うわて)だったな~。

1回も、俺らに嫉妬してる素振りも悲しんでる素振りも見せなかった」