「別に、誰かを好きになったわけでも……

綺世を、嫌いになったわけでもないのよ」



「……ん、」



「わたしたちが1年生だったとき。

3年生に、学校でいちばん綺麗だって言われてた先輩がいたの、覚えてる?」



「……俺とか綺世とか、同中出身だしねえ。

先輩にはそれなりにお世話になってきたからな~」



もちろん覚えてる。

でも本当に学校でいちばん綺麗だって言われてたのは、ひのなんだけど。……あの先輩、プライド高かったからねえ。後輩に負けたくなかったんだろうな。



「その先輩が、綺世の元カノだったことを去年の夏休み前に知ったの。

先輩にとっては高校生活最後の夏を綺世と過ごしたかったんだろうけど。……わたしの知らないところで、綺世は先輩にたくさん誘われてた」



去年の夏前。綺世が「めんどくさい」って嫌そうな顔をしてた。ひのがいるのにしつこい、って。

もちろんあの頃、ひのと綺世は"絶対別れない"って言われてるぐらい仲良しで、入る隙もないって誰もが思うぐらいふたりだけの世界を作り上げてたのに。




「でも、綺世はちゃんと全部断ってただろ?

今回だけデートしてくれたらもうこれ以上付き纏わないっていう楽な提案もされてたのに、「ひのが嫌がることはしたくない」って乗らなかった」



どこまでも、ひののことを優先してた。

不安になる要素はどこにもなかっただろと思うのは、何も知らない俺だからで。どこか引きつったように、彼女は薄い笑みを浮かべる。



「……その頃って、高校に入ってそれなりに一緒にいる友だちも決まってくる頃じゃない?

……ストレス感じたりして疲れてる時期だったの。あと、元カノだって知った時がちょうど女の子の日とかぶってて、余計に憂鬱な時期だったから、」



心にも身体にもそれなりに疲れていた時に知った、学校でいちばん綺麗な先輩の元カノ話。

ふっと息を吐いたひのは、涙を堪えるみたいに空を見上げる。



「それでも……みやが言った通り、綺世は片っ端から断ってくれてて。

疲れてたけど綺世が優しくしてくれてたから、それなりに平気でいられたの。何も深く考えずに、そばにいたいって思ってた」



だけど、先輩の綺世に対するアピールは一向に落ち着かず。

ついには、ひのの前でも平然と声を掛けてくるようになった。



「大丈夫って自分に言い聞かせて、一緒にいたけど……

先輩がね、綺世にクリスマスに遊びに行こうって誘ってたの。……わたしの目の前で」