「……されたわよ。

なんなら、ちゃっかりくちびるまで奪われた」



……まじか。

たぶん我慢出来ずに言うだろうなって話は、ひのと綺世がいなくなったあとのLARMEで話してたけど。手まで出したのかあいつ。



「綺世からは、何も聞いてないの?」



「ん~。どうなった?って聞いたら、言わないって言われたからたぶん悪い方向に持ってったわけではねえしな~って。

でも綺世の誘い、お前が片っ端から断ってるからちょっと落ち込んでたぞ~」



「彼氏のいる女を誘っちゃだめでしょ」



音ちゃんもいるわけだし、と。

ため息をつくひのに、"そうだな"と形だけの言葉を返す。音はさておき、本人の気持ちの方が大事なんじゃねえの? ……俺は恋とかしたことねえからわかんないけど。



綺世はひののことが好き。

至ってシンプルな答えだと思うけどねえ。




「でも断るってことはさ~。

彼氏とうまくいってんだろ~?」



「……うん」



1回しか会ったことねえけど。

ひののこと、すげえ大事にしてるのは見てるだけで伝わってきたし、幸せにしてもらってんだろうな。……たったひとりの"特別"として。



「……ひとつだけ聞いていい?」



なに?とひのが寄りかかったままの俺の髪に触れる。

ふわふわとゆるく撫でるように触れてくるから心地よくて、ご主人様に撫でてもらうペットみたいな気分だ。……このまま目を閉じたら、そのうちねむれそう。



「綺世と……別れたの、なんでかと思って」



ぴた、と一瞬彼女の手が止まる。

けれど何もなかったみたいに再開したそれに、ゆっくり目を閉じれば、ひのが「あのね」と口を開いた。