夕李には、感謝しても全然足りない。

罪悪感だって消えてはくれないけれど、夕李との別れにはお互いに「別れ」って言葉も「ごめん」って言葉も使わなかった。



でもこれが、いちばんわたしたちらしい別れ方だったと思う。

……夕李はどう思ってるのかは、わかんないけど。



「未練がましいけどさ。

……花火大会だけ、一緒に行かねえ?」



「……かのと約束してるんだけど、」



「ああ、うん。いーよ。

かのが嫌がったらやめるから、3人で行かねー?って、あいつに聞いといて」



そんな約束を交わして、店にもどったら。

もちろんわたしは泣いて間もないため、「行く前よりひどい顔してない!?」とみんなにバレて。



夕李はわたしのことを泣かせたってみんなに怒られてたけど、わたしの為を思ってか「いま別れてきた」って先に言ってくれた。

えっ、と気まずい雰囲気が流れたのは一瞬だけ。




「俺ひののこと好きだって言ってたけど。

ひのが俺のこと好きなんて言ってねーだろー?」



「や、でも……」



「ひの、ずっと好きだったヤツいるんだよ。

んで、やっとうまくいきそうらしいんだわ。……だから、応援してやって」



どこまでも優しい夕李のおかげで、わたしはみんなから「おめでとう」やら「よかったね」って言葉をたくさんもらった。

夕李は男子たちに「ほら失恋ホヤホヤのお前に注いでやるよー」なんてジュースを注いでもらっていて。



そのノリの軽さもさすが地元、って笑ってしまった。

楽しくご飯を済ませた後は、川辺で手持ち花火。別れたばかりなのに夕李と並んで線香花火をするのは、違和感があったけど。



付き合っても別れてもそう距離感が変わらないこの関係が、心地よくて。

やっぱり夕李と恋人になりきるのは難しかったんだなと、痛いほど実感した。



地元のみんなで騒いだその夜。

みんなで最後に撮った写真は。わたしも夕李も、ちゃんと笑顔だった。