ぐっと顔を近づけてくるからさすがに近いと言えば、わずかに離れてくれる。うん、わずかに。

……いや、ほんとになんなのこの人。終業式終わりで少ししか残ってない教室内にいる女の子たちが、ちらちらこっち見て睨んできてるんですけど。



「別にいまさら気にする仲でもないだろ」



「わたしにも綺世にも恋人がいなかったらね……!」



いるから困ってるんですよ……!と。

じたばたしてみたら、仕方ないなと離れる綺世。わたしが正解のはずなのにあきれたような顔をされて、なんだか釈然としない。



「とりあえずこの手も離し、」



「……ひの」



耳元で。

突然甘い声で名前を呼ばれて、ぴくりと肩が跳ねる。




「コンビニにアイスでも買いに行くか?」



アイス、は、食べたいけども……

どうしてそれをそんなに色っぽい声で言う必要があるんですか!?思わず、何か真剣な話でもあるのかと思って真面目に聞いたのに……!!



「っ、もう……近いってば」



「はいはい、そこのイチャイチャしてるおふたりさん〜。

音も学校終わったらしいから、合流して飯行くぞ〜」



ゆるやかな声で。遮られてはっとすると、綺世を押しのけてなんとか逃げる。

学校からひとまず出ようとそのタイミングを見計らってみやの隣に逃げたら、「お前も大変だねえ」とまるで他人事のように告げられた。……他人事だけれども。



「……そういえば音ちゃんって学校どこなの?」



「ん〜? 城藍(じょうらん)だよ〜」