それから納得したように、副総長らしい手前の彼がくすりと笑って。

「もったいないことしたね」と言うから、なんだか心にグサグサ刺さる。確かにもったいないことしてるだろうけど、わざわざ言わなくても。



「でもまあ……心配しなくていいんじゃないの」



「え?」



「有名だって言ったでしょ。

『鳴海 綺世を唯一振った女のことを、ずっと綺世本人が引きずってる』って」



ありえないことを言い出すから、目を見張る。

それから、「そんなわけない」と首を横に振った。そんなこと、ありえるわけがない。そもそも先に彼女をつくったのは、綺世の方だ。



「ま、なんでもいいや」



アサギさん何か紙ある?と尋ねる彼。

出されたメモ用紙にさらさらと何かを書き込みしたかと思うと、手を伸ばしてわたしに渡してくれたそれは。




ケータイの番号と思しき数字と。

その下に、『久米野ゆず』と名前が添えられていた。



「俺の連絡先。うちのチームは基本俺が連絡取ったりしてるから、なんかあったら連絡してきて」



名前なんだっけ、と言われていまさら自分の名前を名乗る。

ひのちゃんね、と微笑む彼に、アサギさんが「普通彼氏持ちの男ナンパする?」とあきれたようなため息をついた。



「ナンパなんかしてないから。

さて、結來、希季行こう。アサギさんごちそうさまでした」



手際よくお会計を済ませて、お店を出ていく3人。

またねー、と美少女がわたしに手を振ってくれたけれど、また会うことなんてあるんだろうか。



「……俺らも、そろそろ行く?」



「あ、待って。ケーキ残ってるから食べる」