毛並のいい背中が遠ざかって行く。


「待って、置いていかないで!!」


あたしは必死に叫ぶ。


瓶を両手で殴りつけて「ミィ! こっちを向いて!!」と、声を上げる。


「なんだ。こんな所にいたのか」


そんな声と同時にあたしは大きな人影に包まれた。


振り向くとそこにはあたしを見下ろしている陽介君がいる。


陽介君の手にはリカちゃん人形。


服を着ていないその人形の背中には、本物の昆虫の羽が付けられているのが見えた。


あたしは一気に青ざめていくのがわかった。


どんどん血の気が引いていき、手足が冷たくなっていく。


「やだ……」


あたしは無意識の内にそう言っていた。


「百合花、どこに行ったんだ?」


そう言いながら、あたしの隣を和が通り過ぎていく。


「ここだよ、和!! あたしはここにいるの!!」


その場で何度も飛び跳ねて和の名前を呼ぶ。


しかし和は気が付かず、そのまま行ってしまった。


「俺の『ムシ女』だ。誰にも渡さない」


雄介君がそう言い、瓶を手に持つ。


ニヤリと笑った顔が近づいて、あたしはその場にしりもちをついた。


逃げ場はどこにもない。


「さぁ、一緒に帰ろう」


そんな悪魔のような囁きが、あたしを地獄へと導いたのだった……。