ぼーん――ぼーん――


遠くで時の鐘が鳴る。
少し冷えた濃藍の空によく響いた。



「4回……四つですな。はい、お待ち」


「ありがとうございます」



そろそろ落ち合う時刻だ、と暗にケンキチさんは言った。

そしてうどんが出される。

本当にうどん屋なのでは、と疑うほどに店のうどんらしいものが出てきて驚いた。

やはりこの人は本物だ……


などと妙に納得していれば、砂をザッザッと軽く引きずる音が右から聞こえてきた。


辺りは真っ暗だ。

あるのは、網敷天神の鳥居や社くらい。


副長だろうか、あるいは通行人か……と少し緊張が走る。

うどんに向けた箸を思わず止めた。


すると足音もすぐ側で止まる。

そっと顔を上げてみれば、やはりそれは土方副長だった。



「よぉ、平助。粋なことしてくれるな」



にやりと口元を緩め、そう言っては隣にすっと座った。

唾を飲み込み、何も言わずにと頭を下げた。



「おっちゃん、一つ」


「へぇい」



副長は何も考えずにただ注文しただけだったが、返ってきた声にどうやら聞き覚えがあったらしい。

思わず二度見をしていた。



「って、山崎!?お前何してる――」



そう問う前に察したのか、副長はちっと舌打ちをした。

「おめえら、仕組んでやがったな」と小さく漏らす。


ケンキチさんは何食わぬ顔だ。

俺はただ、隣に座る不機嫌そうに見える男に状況を説明した。



「屯所内で会えそうにもなかったので、呼んでしまいました。それで不自然さをなくすために山崎さんに……すみません」


「いや、山崎なら安心できそうだしむしろ名案だろう」



だがこんな所では逆に目立たないか、と指摘されることはなく、ははは、とやり過ごす。