「あんたの忘れ物をわざわざ5時間目の休み時間に届けに来たと言うのに!しかもわざわざ下学年のクラスまで直接!それなのに感謝もないなんて吉田は血も涙もないのか!鬼か!悪魔か!魂売ったのか!?」

やいやい罵ると吉田は「うるさいです」と眉間にシワを寄せた。


「…どうもありがとうございました」

「めっちゃ嫌そう!眉をひそめてるし嫌悪感がすっごい滲み出てるよこんなにもらって嬉しくない感謝の言葉は今までに聞いたことないよ!」


吉田は大きな溜め息を吐くと教室に戻った。


「放課後に委員会あるからね!忘れないでよね!」


後姿にそう叫ぶけど、吉田はこちらを振り向かない。


私は溜め息を吐いて教室に戻った。


吉田と私は図書委員。


しかも当番が被っていて、毎週木曜日の昼休みに図書当番をしている。

本を借りたり返したりするのをバーコードリーダーでピってするやつ。すっごく楽しそうでしょ?

一度やったら忘れられない、虜になっちゃう、あの快感。

楽しいよ。確かに楽しい。

ただ、いっしょに当番をするやつが、あーんな無愛想で無表情で可愛いげのない後輩じゃなければどんなに楽しかっただろうとは思う。

きっと今よりずっとずっと、何十倍も楽しいだろうことに間違いはない。


「まーたあの子のとこ行ってたの?」


自分の教室に戻った私をそんな言葉で出迎えたのは、親友の咲(さき)。


「理奈(りな)、なんだかんだであの子のこと好きだね」