可愛い、と言った声が届いたのか、吉田はさらに俯いて猫を抱く力を強くした。

訳が分からないと言わんばかりに猫が吉田の腕から逃れようともがきながら「にゃあ」と鳴く。


「よ、よし…」

「もう、やめてください」


吉田は私の言葉を遮った。



「それ以上言われたらもう…


もう、心臓が、持ちません」



どくんと心臓が跳ねた。


「も、もう俺、俺帰るんで!」


吉田は猫を開放すると立ち上がって私に背を向けて歩き出した。


「ちょ、吉田?!」


突然の展開に追いつけず、背中に向かって吉田の名前を呼ぶ。

吉田は私の方を振り返ろうともせずどんどん遠ざかっていく。

吉田を追いかける私の後ろを猫がにゃあと鳴きながら追いかける。


「待ってよ、吉田!」

「追いかけてこないでくださいよ、ストーカーですか!」

「ひどい!」


ほんと、可愛いかと思ったらいきなり不機嫌になって、吉田はまるで猫みたいだ。

そんな考えが思い浮かんでふっと笑みがこぼれた。


ああ、きっと。

吉田の可愛いところは、また当分見ることはないだろう。


「先輩なんて大っ嫌いです!」


吉田は明日も、不機嫌だから。



fin.