◆あなたに一粒チョコレート◆

「浪川っ!普段どうでもいい浪川とか言ってごめんね。頑張ってね!」

「いや、普段どうでもいい浪川って言われた事ないけど。とにかく頑張るけど」

幸せに揺れる浪川のストラップを、私は見つめて微笑んだ。

***



「ふーん」

「……なに?」

部活を終えた瑛太との帰り道、私は真顔で瑛太を見上げた。

「どうしてあの雑誌が浪川のだって直ぐに言わなかったの?」

「……」

瑛太は私から眼をそらすと、なにも言わずに黙々と歩いた。

「浪川を庇ったの?」

「……」

「……でも見たんでしょ」

「……見た……」

「変態」

「ごめん」

「ダメ」

「ごめんって」

瑛太が私の手を握って引き寄せた。

それから私の耳に小さく囁く。

「もう見ない」

「じゃあ、バーガーおごって」

「ん」

「瑛太、大好き」

「俺も春が好きだよ」

私は大好きな彼の手をしっかりと握ると、夕暮れの中を弾むように歩いた。



   *あなたに一粒チョコレート*
        
 end