「春!」

「やだ、離して」

「春!こっち向けって!」

帰り始めた生徒達が、何事かと私と瑛太を交互に見た。

「……瑛太、離して。私約束があるの」

瑛太が私の正面に回り込んで身を屈めた。

涼やかな眼がこっちを覗き込むから、私は顔を背けた。

「鮎川?」

「うん。卓球したくて。楽しみにしてたんだ」

そう言った私の頬を、瑛太が両手で包み込んだ。

「何で泣いてんの」

ビクッとした。

だって自分が泣いてるなんて気づいてなかったから。

「やめてよ、瑛太」

「俺と帰ろう。話がある」

さっきより、もっと身体がビクッとした。

それから、胸がギシギシと痛む。

話?そんなの聞きたくない。

だってきっとこう言われる。

『俺、谷口先輩と付き合ってるんだ』って。

もう瑛太に一番近いのは、私じゃない。