なによ……これ。

心臓が押し潰されたみたいに苦しい。

「春、」

瑛太が焦ったように私に一歩近づいた。

その表情に何故かたまらなくイラついて、私は谷口さんに向き直った。

「どうぞお構い無く。確かに私は瑛太と幼馴染みだけど、恋人との仲を邪魔する気なんか更々ない」

言い終わると身を翻し、私は瑛太の脇をすり抜けた。

バニラの香りは、あの人だったんだ。

心臓が破裂しそうな程脈打ち、それが耳元まで響いた。

瑛太があの人と。

あまりの衝撃で、なんだか夢みたいだ。

でも、だけど。

私には関係ない。

瑛太が誰と何をしようが私には関係ないもの。

私は早足で用具室から離れると、どうしていいかわからず、部室へと走った。