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「ね、川瀬さん、お願いがあるんだけど……」

三木さんの控えめな呼び掛けに、私は振り向いた。

「なに?どうしたのー?」

「あのさ、今日は先に上がっていい?実は……チョコレート作りの材料を買いに行きたくて……。明日は練習試合でしょ?私夕方からは習い事で買いに行けないんだ。日曜日に一度本番に備えてチョコレート作り練習しときたくて……」

私は驚いて三木さんをマジマジと見つめた。

「えっ?!もしかしてバレンタインデーの?練習なんかすんの?!」

私の驚きに少し恥ずかしそうにして、三木さんは頷いた。

「えっ、あ、うん……。私、凄く不器用なんだ。だから、失敗しちゃう可能性高くて」

……そうなんだ……練習するんだ。

私とは違って、物凄く清楚でおとなしい三木さんが、バレンタインデーに手作りチョコレートを……。

う、羨ましい。

三木さんがじゃなくて、もらう男が羨ましい。

こんな可愛い三木さんにチョコをもらえたら、男子はウハウハだよね。

「あとはグラウンド整備だけだから気にしなくていいよ。チョコ作り頑張ってね!」