「私ね、喧嘩が好きみたい」
「……へ?」
「昔ね、やんちゃしてたの。その名残で……血が騒ぐというか」
場所を移して、公園のブランコを小さく漕ぎながら、宮ちゃんは反省するように俯いた。
彼女の口から聞かされた彼女の過去は、今の彼女の見た目からは想像出来ないことばかり。
でも、少し納得がいったのも事実。
ーー時々、酷く冷たい瞳をしているから。
それは、必ず相手が敵意を向けてきたときだ。
「ごめん!由李を傷付けるつもりは無かったの、本当だよ?」
「うん」
「うんって……なんでそんな軽いの」
「だって宮ちゃんに傷付けられたことないもん」
そう言うと、宮ちゃんは「は?」と驚きと憐れみを込めて見つめてきた。
「……強く、殴りすぎたから?」
「殴られたのは頭じゃなくて、ほっぺただよ」
「だからじゃない!」
ブランコから飛び下りて、宮ちゃんは私の前で腰に手を当てて見下ろす。
威圧するような態度だけれど、その瞳は不安げに揺れていて。
月を背にして立つ彼女に、柔らかく微笑みかけた。
「……私、傷付いてないよ。ほっぺたは痛いけど、あれは私が飛び出したからだし」
「でも、」
「ーーそれに今までずっと、宮ちゃんは私を守ってくれたじゃない」
「……私、こんなだから、友達なんていなくて」
「うん」
「転校したのも、喧嘩とかが理由で……だから、由李がからかわれてた時、本当は迷ったの。
ここで喧嘩したら、また皆に迷惑かけちゃうし……友達だって出来ないと思った」
「……でも、助けてくれたね。ありがとう、宮ちゃん」
うるっと瞳に涙を浮かばせて。
ぐいっと涙を拭って、私に手を差し出してブランコから立たせる。
猫目を少し細めて、いつも通り強気に笑う。
「あの後、その男の子と一緒に廊下に立たされたけどね」
「転校初日だったのにね」
ぷっ、と二人顔を見合わせて吹き出す。
彼女を止める方法が、私が殴られることだとしても。
彼女がいつも私を助けてくれるように、彼女の暖かい笑顔を守りたいと思った。