「のろま由李ー!こっこまーでおーいで!」

「や、止めてよ」

その日も。

私は男の子にペンケースを奪われて、びくびく震えながらも男の子を追いかけた。

男の子は足が速くて、全然追いつけない。

「おーい、のろま由李ー!悔しかったらーーってぇ!」

男の子の後ろから、見覚えのない女の子が腕を振り上げた。

「えい」と男の子の頭にチョップして、私のペンケースを取り上げる。

そして女の子は堂々と腰に手を当てて、微笑んだ。

強い瞳だけは、男の子を睨みつけて。

「中学生にもなって、こんな事してるの?あはは!だっさーい」

「なっ……てめぇ、誰だよ!」

「はは、やる気?掛かってきなよー」

間延びしたような声は、何処となくうきうきしていて。

態と煽るような口調は、この時から健在だ。

「おいこらお前らー!喧嘩すんな!」

「げっ!」

先生が駆け寄ってきて、一目散に逃げ出した男の子を見つめる彼女の瞳は余りに冷たくて。

彼女がこちらを振り返った時、私は助けてもらったくせに、思わずびくっとした。

けれど、見間違いかと思うほど、彼女の瞳は人が変わったようにきらきらと輝いていて、そしてとても優しく微笑んだ。

「大丈夫か?」

心配そうに尋ねる先生に、頷くのが精一杯だった。

私は暫く、不思議な雰囲気を見せる彼女から目を逸らすことが出来なかった。

「由李ちゃんっていうの?私、宮日!転校生!宮でいいよー」

「転校生……宮ちゃん……?」

「そう!これからよろしくね、由李!」

これが、宮ちゃんとの出会いだ。