「普通科がこっちを見ないでくれる?馬鹿が移る」

「は?自惚れんな。誰も特進科なんて見ねぇよ」

ーー目が合えば、必ず一触即発。

そんな光景は、"普通科"と"特進科"が顔を合わせれば珍しい事ではなく。

「みーずはーらちゃん♪」

「と、通してください……!」

「怯えてるのー?可愛いー」


特進科 水原 由李。

人見知りが災いして、昔から何かと男の子にからかわれやすい。

現在、普通科の男の子二人組に絶賛絡まれ中。

鞄を両手で抱き締めるように抱えて、そこに顔を埋めるように顔を隠す。

……嫌だな。怖いな。

けれど、そんな事が日常茶飯事のこの高校では誰も助けてくれることなんて無い。

というより、どちらかが勝つまで喧嘩する人達がほとんどである。

だから私のような地味な子は、彼らの格好の獲物なのだろう。

「通してぇ……」

人見知りーーそれも男の子限定の、いわゆる男性恐怖症。

男の子は皆背が高くて、身体がごつごつしてて、そして意地悪だ。

縮こまる私に伸びる手にぞっとして、鳥肌が立つ。恐怖からか、じわりと涙すら浮かぶ。

「あはは、泣いてるー。可愛いー」

迫り来る男の子の手から遠ざかるように後ずさると、どんっと背中に何かが当たって、衝撃で涙がぽろっと流れた。

慌てて振り向くと目の前に映ったのは、黒い学ラン。第三ボタンまで開かれた白いシャツ。

( ーー普通科の、制服だ )

そう気付くと、出かかった謝罪の言葉が喉の奥に引っ込んでしまった。

「はよ」

頭上からは、やっぱり男の子の声がして私は金縛りにあったみたいに動けなくなった。

だけど、それは恐怖じゃなくて。

ーー低く響くような声に、思わず聴き惚れてしまったからだと思う。