下宿屋 東風荘

「なら、魚屋の御主人のおかげですよ?たまに骨抜きしてくれますから」

「そうだったんだ。魚って骨ってイメージが強くてさ」

「なんだい、坊主は骨が嫌いか?」

「うん……おじさんが抜いてくれてるって今聞いた」

「場所によっちゃ少ないところもあるんだけどな、ほらここ。人間でいうと肋のあたり、腹側がうまい。後、頭にもすこし身があってな、つまみには最高だ」

「彼はまだ高校生ですから……私の摘みがなくなってしまいます」

「だな。スズキも三枚に下ろしておいたから」

「ありがとうございます」

代金をつけておいてもらい、店を出ると雪翔が歩いてきた。

「あ……」

「こんにちは。お使いかい?」と目で合図する。

「誰?」

「今度下宿に来る子で雪翔君です。こちらは海都。ひとつ上になります」

よろしくな!と海都が手を出すと、緊張した面持ちで手を握り返す。

「どっか行くのか?」

「あ、帰るところ。本屋さんに寄りたくて来ただけだから」

「雪翔君、時間あります?」

「はい」

「だったら下宿に行きましょうか」

「え?」

「行こうぜ!多分大学生誰か帰ってきてると思うし」

「あ、隆弘君ですね。今日は確かアルバイトはなかったと思いますよ?」