「誰も来ていないか……今日は本当に疲れたねぇ」

草履なので、砂利道でもそれ程音はならないと思っていたのだが、玄関先に一人誰かが座っている。それも、下宿では無く自宅の方の玄関にだ。

「誰だい?」

「あの……」

あげた顔を見ると、雪翔だった。家から距離があるのに裸足のままで、それも寝間着姿だ。

「兎に角入りなさい……こんな夜中にどうしたんだい?喧嘩でもしたのかい?」

「違うんです。気づいたらここに……夢でおじいさんがここに来なさいって道案内してくれる夢を見て、気づいたら……」

爺さんの仕業かと思い、囲炉裏に火をかけてから毛布で雪翔を包む。
お湯を沸かしお茶を入れて、熱いから気をつけてと渡して座布団に座る。

「この家はこの囲炉裏しかなくて済まないね」

「いえ……あの、聞いてもいいですか?」

「なんだい?」

「この前も思ったんですけど、母は気付いてないみたいで聞けなくて。その……耳と尻尾が……」

見えるのか!と立ち上がりそうになったが、イタコの血を引いているのだからその遺伝子が受け継がれているのだったと思い、どこまで話すか悩む。