【Side Chise】



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7代目就任の前から、色々と忙しかったからかもしれない。

平穏を感じるのはどこかひさしぶりで、目の前で机に突っ伏してすっかり眠っている彼女を見て、くすりと小さく笑う。──5月も、中頃。



おどろくほどに平穏な日々が続き、HTDの刺客にやられた西の傘下の下っ端たちもすっかり回復した。

莉胡のせいじゃないとは誰もが散々言っていたけれど、全員の怪我が良くなった後にちゃんと相手の元まで赴いて頭を下げた莉胡には、さすがに誰もがびっくりしていたし。



下っ端たちは、莉胡のことを散々褒めていた。

トップの横に並ぶ姫が、あんな風に誰かの痛みをわかる人なら、東西は絶対にもう対立しないと。



「えっ、莉胡ちゃん寝たの!?

まだ勉強はじめて30分とかだよー!?」



だが平穏な日々と言えど、学生の敵であるテストは行われるわけで。

もはや御用達のファストフード店で食料を買い込んできたせいで、東の幹部室には匂いが充満してる。東西ともに同じ日に行われるテスト勉強中なのだが、由真が目を離した隙に眠っている莉胡。



「1回熱も出してるし、

やっぱりちょっと疲れてるみたいだよ」



ぎしりとソファを鳴らして立ち上がったあと、女子用に持ち込まれているブランケットを取って莉胡の背にかける。

首筋では、新しくしたチェーンにつながれたネックレストップとペアリングが触れて、虫の声ほど微かな音を立てた。




「疲れさせてんのは千瀬じゃないの?」



「そ~そ。

イロイロ無理させてんじゃねえの?」



真顔で聞いてくる羽泉と、悪ノリ代表のアルト。

ふたりに尋ねられて、「そんなことしないから」と返すけど、ほんとうに最近はのんびり続いてると思う。



無理させるようなことはしてないし、莉胡の好きな添い寝だけのお泊まりも、相変わらずちまちま実行してるし。

なにも問題はないはずなのに、どうしてこんなに疲れた顔をしてるんだか。



「莉胡ちゃん、ちゃんと寝てる?」



「……俺の目の届く範囲ではね」



さらさらと揺れる髪をそっと撫でて席にもどると、時間が経ってすっかり氷の溶けたコーヒーに口をつける。

ミヤケは莉胡に勉強を教えてもらう気だったようで、ちょっとだけ困ったような顔をしてた。